巨額の設備投資を必要とする地上デジタル放送への転換を前に、財務体質の改革は避けて通れなくなった。土居社長は企業年金の制度変更を決意した。2002(平成14)年2月、年金コンサルタント・河村健吉氏を迎え池内義直常務、河田正道総合企画局長を中心に検討が重ねられた。企業年金の制度変更は、受給者全員の同意を必要とするなど至難とされたが、河村氏のアドバイスにより、年金資産運用委託幹事社を明治生命から住友信託銀行に変更し、次の改革案が作成された。①加入者の給付利率を5.5%から3.0%に引き下げる、②加入者の年金給付保障期間を10年から15年に延長する、③年金受給者の給付額を一律10%減額する、④年金掛金を計算するための予定利率を4.0%から2.3%に引き下げる。改革案は2002(平成14)年10月1日から実施するというものである。6月21日に会社側の改革案を決定して以来、6月28日の社員(加入者)を皮切りに年金受給者、労働組合を対象とした説明会を相次いで開催し、土居社長自らが出席して、制度変更にいたる経緯と変更の内容について説明し理解を求めた。説明会では、サンパークなど文化事業施設の運営について経営責任を問う厳しい意見が相次いだが、土居社長は「退職年金制度を守ることが、今の経営者に課せられた責任である」と繰り返し説明するとともに、改革後3年間は制度変更を行わないことを確約した。話し合いを重ねる中で、既に会社を退職した受給者にも痛みを分かち合うことへの理解も少しずつ得られ、9月には労働組合のほか、受給者124人、さらには加入者(社員)152人の全員から同意書を得ることができた。9月30日の再計算の期限切れ直前に、退職年金制度の変更を実現した。10%の給付減額に同意できない受給者には、制度変更前の年金給付額を一時金に換算して受け取り、制度から退出できる選択肢が設けられた。受給者124人のうち、56%にあたる70人がこの選択肢を選んだ。難題と見られていた退職年金制度の改革が実現し、経営体質改善への一歩が前進した。244第6章 経営改革の時代
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