131第3節 転換期の時代と放送テレビドキュメンタリー『父から子への歌声』(1981年・90分)が、昭和56年度芸術祭大賞を受賞した。南海放送の創立以来初めての芸術祭大賞受賞である。松山盲学校生徒の武久源造君をとりあげた『チェンバロを弾く少年』(1972年・民教協『親の目子の目』奨励賞)、東京芸術大学初の盲人学生となった武久君の勉学と生活を記録した『父の歌が聞こえる』(1978年・放送批評懇談会ギャラクシー賞)と制作を続けて、音楽家としての成長を10年に亘って記録した集大成ともいえる作品である。武久源造君の少年期から青年期にいたる成長には、つねに、松山盲学校の音楽教師であり、声楽家であった父博文さんの励ましがあった。その父は、なにより楽しみにしていた武久君の東京芸術大学卒業を待たず、48歳の若さで他界した。松山ルーテル教会における悲しみの告別式、遺骨の埋葬、再び東京に帰った武久君には、厳しいレッスンが待っていた。のちに、彼は著書の中で次のように自己の音楽を語っている。「私はいつのまにか、自分が日ごろの何倍も鋭敏になり、自分の指が、今まで想像したこともないほど繊細に動いているのに気づかされた。それは明らかに一つの目覚めであり、大いなる恵みであった」(武久源造『新しい人は新しい音楽をする』ARC刊)ディレクターの弘岡寧彦、カメラの菊地孝夫は淡々とした映像で主人公の日常を描いたが、強烈な個性をもつ音楽家の成長を見つめてきた歳月の積み重ねがあった。早坂暁氏はこ『父から子への歌声』第3節転換期の時代と放送-芸術祭賞を連続受賞-芸術祭大賞受賞式・左側 賞状を受ける弘岡寧彦
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