南海放送50年史
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から有機サリン酸系のガス中毒が疑われた。翌日、長野県警が第一通報者の河野さんの自宅から容疑者不詳の殺人容疑で薬品類数点を押収したと発表した。さらに警察庁幹部から「河野さんが農薬の調合をまちがえた」との情報が漏れた。報道各社は河野さんの名前は伏せたものの、第一通報者の会社員が除草剤を作ろうとして薬品の調合をまちがい、有毒ガスを発生させたと報道した。事件から1週間後、捜査当局は原因物質は猛毒ガスを発生させるサリンと断定した。専門家によれば、河野さんの自宅で押収した薬品からサリンを作ることは不可能であったが、報道は警察の見方に引きずられて河野さんの農薬調合ミスと見る姿勢を変えなかった。地下鉄サリン事件の解明とオウム真理教への強制捜査が進む中で、松本サリン事件もオウムが裁判官宿舎を狙って噴霧車からサリンを撒いたことがわかった。河野さんは、名誉回復をかけて報道各社を提訴する準備を進めた。これに対して朝日新聞が4月21日付の紙面で「河野さんが農薬の調合に失敗して有毒ガスを発生させた、との印象を読者に与えた」として謝罪し、日本テレビは6月2日、「昨年6月28日の『きょうの出来事』で、河野さんを容疑者と思わせるように報道してしまった」と放送を通じて謝罪した。他の新聞・通信社・テレビもこれに続き、すべてのメディアが誤報を謝罪するという「日本のメディア史に前例のない不祥事」(NHK編「20世紀放送史」下巻)となった。民放連はこの年7月25日、第1回放送倫理セミナーを開催し、松本サリン事件報道の検証をテーマとした。その中で、「警察情報をうのみにしてはならない。独自の情報をいかにしてとるか」などの反省と課題が提示された。TBSによる坂本弁護士事件もあった。オウムを告発している坂本弁護士への未放送インタビューテープをTBS社員がひそかにオウム幹部に見せていたことが暴露された。この軽率な行為が坂本弁護士の一家3人がオウムに殺害されると215第3節 あいつぐ自然災害

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